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町田の引退、羽生緊急手術……。
世界選手権での日本勢の展望は?
田村明子 = 文
text by Akiko Tamura
photograph by Yohei Osada/AFLO SPORT
2015/01/14 10:30 Number Web
年末の全日本選手権は、なんともドラマティックなものだった。
大方の予想通りだった、羽生結弦の三連覇。小塚崇彦のSP6位から総合3位へのみごとな挽回。そしてベテランの強豪勢を退けて、堂々と2位入りした17歳の宇野昌磨。どれ1つ取り上げても、それぞれ多彩な物語を抱えた素晴らしい展開だった。
だがこれらのドラマをすべて吹き飛ばすような起爆力を持っていたのは、言うまでもなく町田樹の引退宣言であっただろう。
「私はこの全日本選手権大会を持ちまして、現役のフィギュアスケート選手を引退することを本日(12月28日)、決断いたしました」
総合4位に終わったとはいえ、日本スケート連盟は町田を世界選手権の代表に指名した。その発表の直後の引退宣言であっただけに、観客席からは悲鳴のようなどよめきがもれ、現場は騒然となった。
彼の中で、いつ引退を決意したのかはわからない。だが恐らくその言葉通り、最終決断を下したのは当日のことだったのではないだろうか。
この2週間前のバルセロナのGPファイナルでは、全日本で頑張らなくては次はない、というニュアンスのコメントを何度か口にしていた。この時点ではまだ、世界選手権に向けての意欲を持っていたことは間違いないと思う。
競技人生最後だからこその「第九」。
10月にスケートアメリカで単独取材に応じた時、町田はこう語っていた。
「選手としてはとりあえずあまり長い視野は持っていないから、1年1年だと思っています。4年後平昌五輪まで頑張ります、とはとても言えない」
もともとメダルを目標にして滑るタイプの選手ではなかった。常に順位のことよりもプログラムの完成度にこだわってきた町田だが、2014年のフリー、ベートーヴェンの「第九」への思い入れはまた格別だった。
「このプログラムを完成したときの幸福感と言うのは、絶大なものだと思う。それを手に入れるためには、同等の苦しみを乗り越えていかなくてはならないと思っています」
全日本で見せたフリーは4回転での転倒などもあり、技術的に見ると決して「完成作品」ではなかった。だが町田は最後まで落ち着いた表情で、スケートに対する思いをこめながら演じているように見えた。
リンクへ黙祷を捧げた町田樹。
演技終了してリンクを上がる前に、いつも通りかがんで片手で氷に触った。この習慣は「感謝の気持ち」を表現しているのだという。そして氷を下りると右手を胸に当てて黙祷を捧げるように数秒間、目を閉じた。
「何も思い残すことなく誇りを胸に、堂々と競技人生に終止符が打てます」この翌日、町田はそういい残して21年間続けてきたスケート競技に別れを宣言した。
町田は体力的、能力的にまだまだ成長していける可能性を持った選手であるだけに、もう少し続けて欲しかった。せめて今シーズンを最後まで滑り、世界選手権でもう一度、「第九」に挑戦してくれていたら。これは筆者だけでなく、すべてのファンの思いではないかと思う。
だが日本で1年の締めくくりとして演奏される「第九」という作品を選んだ時点で、年末の全日本選手権が最後の舞台となる可能性を、心のどこかで温めていたのではないだろうか。
思い残すことはないという町田の気持ちの中で、この「第九」が完成作品になったのかどうか、わからない。だが今となっては私たちにできるのは、早稲田大学大学院にてセカンドキャリアに向かって突き進みたいという彼の思いを尊重して、本人が希望するように静かに見守ることだけである。
次々と去っていったトップ選手たち……。
この過去1年間で、織田信成、安藤美姫、鈴木明子、高橋大輔、そして村主章枝と、日本が生んできた多くの名スケーターが、競技生活から去っていった。今回の町田の引退に比べれば、いずれの選手もある程度予測されていた引退ではあった。
それでも日本を代表して、世界のリンクに多くの軌跡を残したトップスケーターが相次いで引退したことで、1つの時代の終わりを実感すると共に、一抹の寂しさを感じないわけにはいかない。
町田引退に続いて、羽生結弦手術の報が。
そんな中、スケートファンにとっては続けざまの衝撃となるニュースが報道された。羽生結弦が腹痛を訴えて全日本選手権のエキジビションを欠場。精密検査の結果、尿膜管遺残症との診断されて30日に急遽手術を受けたのだという。
10月には腰痛のためにフィンランディア杯を欠場し、シーズン初戦となった11月の中国杯ではウォームアップ中に中国の選手との衝突事故。今シーズンは羽生にとって厄年にあたってでもいるのかと思いたくなる、災難続きである。
2週間の入院とその後1カ月の安静治療が必要と発表されたが、1月8日に「術後は徐々に回復しているが、今は焦らず治療に専念したいと思っている。練習はできないが、これも一つの幸運だと思い、次の一歩のための有意義な時間にしていきたい」と本人のコメントが発表された。
今シーズン、無理に無理を重ねてきた羽生だが、今度こそしっかりと休養を取るべきなのではという世論の声も高い。だが本人は、すでに3月の世界選手権の出場に意欲を見せているという。
3月の上海・世界選手権に、間に合うのか?
こうした現状の中で、3月末に上海で開催される予定の世界選手権は、日本男子にとってどのような大会になるのだろう。
1つ明るいニュースは、2年前の怪我から不調を引きずっていた小塚崇彦が全日本ではフリーで見事な演技を見せて、表彰台に復帰してきたことである。久しぶりに本領を発揮した彼の滑りは、ベテランらしい品格に満ちた素晴らしいスケーティングだった。
また今シーズン、一皮剥けたように磨きのかかった無良崇人は、引退した町田の意思を継いで代理出場となる。
現時点で羽生の世界選手権出場が本当に可能なのかは未知数で、たとえ可能でも手術後回復したばかりの体で出場することが良い結果になるのかどうか、なんとも判断できない。だが日本チームに対する義務感だけで羽生が無理に出場する必要はないことだけは確かである。
小塚と無良の二人が上海でしっかり自分の滑りを見せることができれば、この二人の成績で合計13以内という条件を満たして男子3枠を維持することはさほど難しくないだろう。羽生の早い回復を祈りながら、この二人がしっかり調整をしていってくれることを信じて見守りたい。
共感できる田村明子さんのコラムですね。
町田選手には、やはり世界選手権に出てほしかった……。
羽生選手は、無理してほしくないと思います。
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