小塚崇彦が演じた華麗なる“復活劇”
どん底からの再生、手にした大切な財産
スポーツナビ 2014年12月28日 10:50
あえて難易度を高くし、攻めに出る
あふれ出る感情を抑えることができなかった。2度、3度と拳に力を込めてガッツポーズを繰り返す。いつもはクールな小塚崇彦(トヨタ自動車)が喜びを爆発させた。
「今シーズンはなかなかジャンプが決まらなかった。今回も小さなミスはしましたけど、最後までしっかり滑り切ることができました。自分自身でもうるっとくる、何かが気持ちに触れる演技でしたし、今後を前向きに考えられる結果だと思います」
12月27日に行われたフィギュアスケートの全日本選手権、男子フリースケーティング(FS)。前日のショートプログラム(SP)で6位と出遅れていた小塚は、FSで173.29点をたたき出す見事な演技を披露し、合計245.68点の3位に浮上した。
意地と気迫が生んだ“復活劇”だった。冒頭の4回転トウループはなんとか着氷。続くジャンプは事前に提出されていた構成ではトリプルルッツ+ダブルトウループの予定だったが、4回転を入れたコンビネーションに変更した。「勇気を持って、自信を持って、自分を信じろ」。そう言い聞かせながら、あえて難易度を高くし、攻めに出た。演技後半のトリプルフリップではバランスを崩しながらも、かろうじてこらえた。最後は代名詞とも言える流れるようなスケーティングで締めくくる。4回転は2つとも回転不足を取られ、決して完璧な演技ではなかった。それでも待っていたのは、この日1番のスタンディングオベーションだった。
「FSでなんとかこの全日本選手権にフィットできました。今年で考えると残念な結果に終わってしまったかなという感じですが、とにかく『まだできる』『まだ体も動く』ということが分かりましたし、気持ちもまだまだ切れていなかったということも確認できました」
今季苦しんだ小塚が3位。FSで高得点をたたき出し華麗な“復活劇”を演じた【坂本清】
「スケート人生最悪の出来」だった初戦
今季は序盤からいばらの道が続いていた。シーズン初戦となった10月のジャパンオープンでは、ジャンプのミスを連発し、技術点でまさかの40点台を記録。「スケート人生最悪の出来」と肩を落とした。
グランプリ(GP)シリーズが開幕しても復調の気配は見られなかった。スケートカナダは8位、続くロシア杯でも6位に沈む。ファイナルには五輪王者の羽生結弦(ANA)、町田樹(関西大)、無良崇人(HIROTA)の3選手が進出。羽生が連覇を飾るとともに、ジュニアでも宇野昌磨(中京大中京高)が歴代最高得点で優勝するなど日本男子フィギュア界には華々しい話題が続いた。
そんな状況にあって、小塚はひとり蚊帳の外だった。キャリアのピークを迎える中堅や勢いのある若手に対して、25歳の自分はどう戦っていくのか。目標としていたソチ五輪出場は夢に消え、同じ時代を共に戦った仲間は昨季を最後に引退した。「自分が競技を続ける理由は何だろう」。そう自身に問いかけることもあった。
「みんなが辞めていく中で続けてみるのも面白いし、フィギュアがやはり好きだから」と現役続行を決意したものの、モチベーションはなかなか上がってこない。「燃え尽き症候群かな」と感じたのはテレビドラマを見ているときだった。「シーズン序盤から頑張りたかったんですが、今季は気持ちが落ちていたので、自分が思っている以上に大変でした」。それでもこのまま終わるわけにはいかなかった。GPシリーズは第4戦の出場が最後となったため、全日本選手権まで1カ月以上かけて、メンタルと技術面の調整に励んだ。
大崩れした今季初戦のジャパンオープン。GPシリーズ開幕後もなかなか立て直せなかった【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
再着火した競技に対する気持ち
しかし、迎えた全日本選手権のSPは散々な出来に終わった。冒頭の4回転トウループで転倒し、その他のジャンプも乱れた。SP6位という結果は11回の出場で過去2番目に悪い成績だ。
「悔しいのはもちろんですが、それ以上に練習では調子が悪くなかっただけに残念だなと。ただそれを引きずっていても仕方ないし、試合はFSも含めて1つのものなのできちんとやりたいです。気持ちが入っていなかったわけではないんですけど、もう少し気持ちを入れてやらないとだめですね。もう後がないので、小塚崇彦らしい演技を見せられるようにしたいです」
FSでは良い演技を見せたい理由があった。自身を指導する佐藤信夫コーチが全日本選手権の“還暦”を迎えたのだ。佐藤コーチは選手時代に同大会に11回出場。コーチに転身してからも実に今回で49回目の参加となる。それを伝え聞くと、自然とモチベーションが高まった。
気力がみなぎる中で挑んだFS。ジャンプでバランスを崩そうとも、体力的に厳しかろうと、意地でも転倒するわけにはいかなかった。苦しい状況を支えてくれたコーチのために、自分の復活を待ってくれているファンのために、そして己のために。この1本、この瞬間に懸けていた。自身にとって今季最高の4分40秒は、記憶に残る名演技となった。
「競技に対する気持ちが戻っていない状態でシーズンに入ってしまいましたが、ようやく気持ちが切り替わり、燃え尽きかけていたものが再着火したのかなと思います。少し遅かったかなという感じですけどね(笑)」
“還暦”を最高の形で祝福された佐藤コーチも、愛弟子の恩返しに目を細めた。
「今シーズン初めて素晴らしいFSを見せてくれたと思います。本当に今までは何とかやれるかなという感じがあっても跳ね返されてしまった。今日は初めて練習した甲斐(かい)があったなという演技を見せてくれたと思います」
「世界の舞台でもう1度完璧な演技を」
この結果、来年3月に中国の上海で開催される世界選手権への道も開かれた。とはいえ選考基準こそ満たしているものの、GPシリーズの成績で町田や無良に及ばないため、2年続けて“悲劇”に見舞われる可能性もある。五輪選考会となった昨季の全日本選手権では3位に入りながら、ソチへの切符を寸前で逃した。
引退という選択肢がありながら、現役続行を決断したのは「世界の舞台でもう1度完璧な演技をしたい」という目標があったからだ。それだけ世界大会に対する思いは強い。高橋大輔の欠場で回ってきた今年3月の世界選手権では、準備期間の短さもあり6位にとどまったが「まだやれる」という自信はある。
振り返れば昨季も序盤はけがの影響で、思うような成績を残せなかった。しかし全日本選手権をきっかけにシーズン後半は調子を上げた。「最近はそこにしか合わせられない」と笑うが、日本の選手にとって最も重要とされる大会で結果を出し続けることは並大抵のことではない。
来季以降、現役を続けるかどうかは未定だという。佐藤コーチも「そのことに関しては、一言も話し合っていないし、本人の大事な人生だから時間をかけてゆっくり考えてくれればいい」と静観する構えだ。いずれにしてもこの日見せた華麗な復活劇は、今後に向けて大切な財産となる。観客総立ちの称賛がそれを物語っていた。
(取材・文 大橋護良/スポーツナビ)
SPで6位と出遅れたが、佐藤コーチの“還暦”を伝え聞き気持ちを切り替えた【坂本清】
こづ君の来季はまた未定だそうですが、世界選手権で悔いのない戦いをして頂きたいです。
結果が出ないと選手のモチベーションは上がりませんが、最高の形で終えたいと時には選手は思うのでしょうか。
バトルさんが世界選手権を優勝して引退したのも、そんな気持ちだったからでしょうか。
それともたまたま、引退しようとしていた年に有終の美を飾れただけでしょうか。
せっかく、調子が上がってきたので、こづ君にはもう少し現役を続けてほしいと思います。
来季、そして一年づつ続けて、平昌五輪まで頑張れればと思います。
とりあえず3月の世界選手権で、良い演技が出来る事を願っております。
↓「フィギュアスケート研究本」シリーズ第一弾、発売中です。
http://www.shinanobook.com/genre/book/2998
電子書籍は、こちら、PC等でウェブで見られるだけなく、ご自分のiPadやi-phone等のタブレット端末にダウンロードできますので、どこにでも持ち歩き可能です。
ぜひとも、ご利用くださいませ……。
↓こづ君、がんばれ~。ヾ(@^(∞)^@)ノ

人気ブログランキングへ